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<<第1話>>←


  第2話


  1


 2002年、元旦。東京都中野区にも朝もやが立ちこめていた。

 元旦らしく、俺とみいは初詣にきていた。風が冷たい。東京、浅草の浅草寺(せんそうじ)。みいと初詣にでるようになった
のは去年からだ。あの豪邸にひとりきりではみいがかわいそう、という俺の配慮からなのである。

「うわ、浅草寺すげー混んでる」
 浅草寺に向かうまでの仲見世通り(なかみせどおり)を群衆が隙間無く埋めている。
「晴れ着いいなあ。あたしも着てみたい」
 普段着に厚手のコートを羽織ったみいが、羨ましそうに周囲に眼をやる。
「きゃー、流されちゃうよお」
 みいはそう言って俺の左腕にしがみついてきた。左側を見ると、ちょうどみいのつむじが見える。頭ひとつ分くらいみいは背
が低い。俺はそんなに背の高いほうではないけれど、高校に入ってからも順調に2cmほど伸びたので、今は身長172cmだ。
それに比べて、みいは小学生の頃に背が伸びたっきり、まったく伸びていない。148cmといったところか。
「あー人混みに押しつぶされそう。勇介を盾にして境内までくっついていくしかないわね。頑張ってー」
 みいは、さらに左腕に密着してきた。そうなると必然的にみいの胸が俺の左腕に当たる。
 これは、もしやおいしいシチュなのでは・・・・・ここぞとばかりに左腕に全神経を集中させる。マッシュルームのようなフワフワ
した感触が左腕に伝わってくるはず・・・・・・
 ・・・・・・ってあれ?スカスカするぞ。厚手のコートの下はスカスカで、まるで手応えがない。どうやらただのぺったんこのよう
だ。

「もー、なんなのこの混み方。全然見えないよ」
 身長148cmのみいは人混みに完全に埋まっていた。前すら見えていないようで、どのへんを歩いているのかも分かってい
ないようだ。俺の左腕にしがみついたまま、完全に頼り切っている。
 お賽銭箱の前に辿りつくまで、みいの胸に左腕は密着し続けていたが、一向に手応えはなかった。ひじにはそれらしき手応え
はまったく伝わってこなかった。明らかにぺったんだった。みいは身長だけでなく胸のほうも成長していないようだ。こんだけ
ぺったんこだと、間違いなくAカップだろう。身長148cmでAカップとなると、バストは72〜3ってとこか。
 この人混みの中、みいのぺったんこな胸の考察で俺の頭のなかは一杯だった。

「はー。すごい人だったわね。お賽銭も入れたし、お目当てのあんみつ屋まで辿り着いて、ようやく一息つけるわね」
 あんみつ屋の席について食券を机に出しておいたら、5分とかからずににあんみつは出された。人混みで疲れていたので、糖
分の補給には最適。甘くておいしい。スイーツ(笑)とか言ってる場合ではない。

「ほんと、凄い人混みだったね。ぺったんこになりそう・・・・・・」
 ぺったんこ、と思わず口にしてしまい、一瞬焦る。ぺったんぺったんと、みいの胸について検証していたのが実はバレていた
のではないか。みいは明らかに怪訝(けげん)な顔をしている。俺はあわてて話題を振った。
「そういえば、神様に何お願いした?」
「んーとね、今年は新しく家族が出来ますようにってお祈りしたよ」
「新しい家族?ああ、あの豪邸に親戚とかが引っ越してくるようにってこと?おじいさんやおばあちゃんが越してくるとか」
「違うわよー。結婚すれば家族が増えるじゃない」
 え?結婚?
「わたしも今年で18になるんだから、別におかしくないでしょ」
 あまりにも突飛な話に、俺はあんみつを吹きそうになった。
「いや、高校3年生で結婚というのはかなり無理があるのではないかと・・・・・・そもそも相手あっての話ですし」
「相手なんて探せばすぐよ。別に勇介でもいいし」
「・・・って俺かよ!単なる幼なじみのお隣さんじゃなかったのか!こいつはびっくりだ!」
 俺の驚きとは裏腹に、みいはニコニコしながら続けた。
「家もあるんだから、中野区役所に婚姻届出せば、すぐにでも結婚生活が始められるわよ」
 凄いぜ!さすがみいさんだ!発想が自由すぎる!代々木公園の横でやってる自転車の大サーカスのように、自由でリスキーな
人生設計だぜ!女の子のほうがはやく大人になるっていうけど、こういうことなのか。胸はまだぺったんこなのに。

 だがしかし、俺にはそんな覚悟は、このあんみつに入ってる寒天の欠片ほどにも持ち合わせてはいない。なので、俺はまたま
た話を逸らした。

「とりあえずその話は置いておいて、俺は何をお願いしたかというと、聖修大への推薦が決まりますようにってお祈りしといた」
「内部進学狙ってるの?」
「うんうん、聖修の芸術学部にメディア芸術学科ってのが最近できたじゃん。あれ狙ってて、聖修大付属高校受けたんだ。芸術
学部の推薦枠って少ないから競争率高いし。内部の推薦で行ければかなり楽だからね」
「メディア芸術学科って何するとこなの?」
「んー、なんかデッサンやったり、3DでCG作ったり、プログラム組んだりするみたい。俺はやっぱゲーム好きだから、将来
はゲーム会社に就職できたらなと思ってて」
 なにそのオタ臭い学科、と思われるかと思ったが、みいは予想外にしんみりとして、深刻な面持ちで、
「・・・・・・勇介、ちゃんと将来のこと考えてるんだ。わたしはどうするか考えてないなあ。大学もどうするか悩んでる」
 みいは深く考え込んでしまったようだ。

「これはますます勇介と結婚するしかないわね」
 ・・・・・・冗談なのか本気なのか分からないみいの結婚願望トークを、この後も延々と聞かされるのだった。





  2


 レイドギルド『クレイジーファントム』の一人、シリアルキラーは吐き捨てるように言った。

「グレイは甘すぎんだよ」

 それを聞いた同僚のDeeper(ディーパー)は相槌を打った。
「たしかに、グレイは甘すぎる。盟主としての資質には欠けるな。なんでもかんでもなし崩しにしちまうから、ギルドの方向性が
ちっとも定まらん。レイドギルドで行くなら、ボスの奪い合いは必定。ゆえにPK(プレイヤーキラー)していかなければ成り立
たない。だが、グレイは廃人の悪い癖で、廃人同士の馴れ合いを求めてるからな。廃人馴れ合いギルドかレイドメイン敵対PKギ
ルドかハッキリさせて欲しいところだ」
 Deeperの読みは鋭く、的確であった。PKを容認するのかしないのか。ウヤムヤのままにしておけば、後々ギルドの方向
性で揉めるのは必死である。

「シカバネはどう思うよ」
 シリアルキラーがそう振るとシカバネは答えた。
「俺は、仲間とわいわい楽しくゲームしちゃってるの見てると、無性に殺したくなってくるんだよな」
 シリアルキラーは笑い転げた。
「こいつ、真性だwこええw」
 Deeperも悪乗りして言った。
「シカバネって死体写真とか収集してそうだよな。名前からして」
「お、俺はスナッフ写真なんかに興味ないよ。収集なんてしてないって。掲示板でムカつくヤツがいた時に貼る用に保存してるだ
けで」
「こいつ、マジやべえwwwww」
シリアルキラーの笑い声が渓谷に響き渡った。



 3人のプレイヤーが断崖絶壁に腰掛け、下を見下ろしている。雲は白く、空は青い。空気遠近法まで用いられた3D空間内は、
連なる山脈と遠く海洋までを描き出し、果てしなく広がる無限の大地であるかのような錯覚さえ与えていた。仮想世界。すべては
幻にすぎないこの世界でも、人の営みだけは確かなものであった。

 Deeper、シカバネ、シリアルキラー。アカシック年代記初期において一目を置かれる存在となりつつある彼等は、クレイ
ジーファントムの現体制に大きな不満を抱いていた。







続きは同人誌で!

2008年4月20日 サンクリエイション39にて初出



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